年老いた猫は最後の夢をみる

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年老いた猫は

最後の夢をみる

夏の日

彼は焼けつく歩道にたっていた

沸騰するアスファルトの匂い

錆びたフェンス

好奇心と恐怖を煮込んだ

スープの香りが

私を危険へと誘う

 

年老いた猫は

最後の夢をみる

秋の夕暮れ

二度と会うこともない

肌の柔らかい匂い

あなたという生物の体温

日々入れ替わりを繰り返す

孤独と夜

雨の日はむしろ穏やかだ

雨は予定を立てる必要性を打ち消し

ただ黙々と家屋を打ち付ける

雨粒の旋律は

まるで脈拍の計測器のように

がらんとした私の空間の定位を

優しく埋めてくれる

 

年老いた猫は

最後の夢をみる

冬の朝

あたり一面の雪

水たまりと道路と長靴の

擦れる音

交通機関は運休を告げているが

そんなものにはそもそも無縁の

私であった

今はもう

ろくに歩くこともままならぬが

かつての私は

脚力には絶対の自信があったのだ

それはもう失われてしまった

私の誇りだった

 

静寂と冷気があたりを包んだ

時間のうねりが

君にもみえるだろう?

その先にくるものの気配を

君も感じるだろう?

 

年老いた猫は

最後の夢をみる

春の日を待たず

私はきっと死ぬだろう

湧き立つ新緑の匂い

かわいいものや気持ちの悪いもの達

そのパレードに参加することは

もう叶わぬが

せめて古ぼけた過去の記憶の中で

野をかける夢をみよう

脚力には絶対の自信があったのだ

その夢の中で私は

来ることもない春の訪れを

感じるだろう

誰もが待ちわびる

春の風を